オッセオインテグレーション
酸化膜と骨との接触面には、ひとつだけではなく、いくつかの力が働いています。その力が生体の分子を酸化膜へと結合させ、骨結合へとつながっていきます。ちょっと難しいですが、それぞれの力を簡単に説明しましょう。まずは、酸化膜の引力や分子の隙間が媒介となり生体分子を結びつける、「ファン・デル・ワールス力(物理結合)」。この力は非常に弱い力です。それと同じぐらいの強さで働くのが、血液中にある水分の水素イオンを介して生体細胞を結合させる「水素結合」です。この二つよりはもう少し強い力を持つのが「電気的結合力」です。生体細胞と酸化膜表面の両方には、双極子というものが数多く存在しています。その双極子の間に結合する力が発生し、生体分子を酸化膜へと引き寄せるのです。もっとも強いのは、共有結合やイオン結合と呼ばれる力で、ファン・デル・ワールス力の10倍近くまでの強さがあります。この力は酸化膜表面の傷やイオンの隙間、不純原子などの存在が媒介となります。また、これらの力とともに見逃すことができないのは、水分による作用です。インプラントを埋め込むときには、当然のことですが、インプラントは大量の血液に接触します。すると血液に含まれている水分子が酸化膜にくっつくのです。その水分子は、生体の分子を吸着、つまり吸い寄せる作用をするので、結合がしやすい状態になります。金属は酸素に触れるとどんどん内側まで酸化していって、酸化膜の部分が厚くなっていきます。これは骨に埋められたチタンも同様です。からだの新陳代謝によってつくりだされた酸基と呼ばれるものによって、酸化膜が成長していくと考えられています。空気中にチタンを置くよりも、骨に埋め込んだほうが酸化膜の成長は早くなるという報告もあります。酸化膜が厚くなるということは、時間とともにしっかりと結合するということを意味します。